レンズ測定
このウェブサイト上では度々「アサヒカメラ連載〔ニューフェイス診断室から〕 カメラ診断室」の「レンズまわり」のデータを引用しています。そこで、「カメラ診断室」での診断方法を抜粋します。
レンズはカメラについているものだから、レンズ単体のテストをしても意味ない、という説もある。といってカメラにフィルムをつめて写し、そのフィルム上の解像力を測ったのでは、1コマごとのフィルム面の浮動や、その他の影響があるため、レンズ自身の本当の性能とはいいがたい。やはりレンズ単体の性能を測っておけば、そのレンズはそれだけの実力を持っているということが分かるからもしその実力が実際撮影のうえで発揮されなければ、ボデー側のなにかに要因があることが分かる、これが ”ニューフェース診断室” のいい分である。
解像力を測るには、床全体がコンクリートでできた専用の部屋が使われる。床の上にレールが2本敷かれ、その上を重い大きな台が動く。台には真ちゅう製の解像力測定カメラが固定され、カメラから外したレンズは特製マウントによりそのカメラ前面に装着される。カメラのバックには撮影用感光材料が取りつけられる。以前は、小西六特製の解像力測定用乾板を使っていた時代もあったが、製造不可能となったため、現在では富士写真フイルムに依頼してとくに作ってもらった「ミニコピー超微粒子シートフィルム」を使っている。これの解像力は、ライカ判用レンズの場合には63.1分の1にテストチャートを縮尺撮影して、1ミリに20本から280本、また6✕6判用では345分の1にして11本から156本まで測定ができる。
このシートフィルムをホルダーに入れただけでは、前述のフィルム面の浮動があるから、フィルム圧板に細かい穴をあけて、裏から真空ポンプで吸い取ると、フィルムはピタリと圧板に吸いついて平面状になる。
テストプレートは、小穴式のテストチャート(第2図右)を、中央から放射状になん個所もはりつけた大きなもので(第2図を)、最高条件の照明が行われている。これを適当な露光で写し、決められたガンマ値になるよう現像、仕上げしたネガの各部分を、顕微鏡(50倍の拡大率)で観察して、像の鮮度を読んで記録する。最初にカメラにはピントグラスをとりつけ、高倍率ルーペでよくピント合わせを行うが、目の誤りもあるので、その前後ごくわずかずつ微動させて撮影を行なう。この作業はレンズ開放で8枚、絞った状態(ほとんどF5.6)で7枚写されるので、結局15枚のネガができるわけだが、チャートには40枚のチャートがはりつけてあるから、顕微鏡で見るのは合計600カ所ということになり、読み取り作業はたいへんな労力となる。
顕微鏡で読むテストチャートの詳細は第2図のようなもので、幅広い白線群から狭い白線群まで順に並んでいる。これらにはおたがいに直角に配列された2種類があり、その一方は、中心から放射線に平行になる方向(r方向)にはられており、他は同心円に接線の方向(t方向)にはられている。(第2図)顕微鏡で各チャートを見るのはなにを見るかというと、条線がどこまで線らしく解像されているかを探すわけである。たとえば第2図でr方向はC群の3番目まで、t方向はC群の4番目まで読めたとすると、それを表に照らし合わせると、その撮影解像力がr方向では79本、 t方向では89本というように出てくる。つまり1カ所でかならずふたつ撮影解像力が出てくる。
これが記事の中の解像力表に出てくるRuとRtという欄の数字である。「画面中心からの距離」というのは同心円の半径をいう。最初の0は中心をあらわし、つぎの39ミリは半径39ミリの円周上のチャートから読んだ撮影解像力、7.8は半径78ミリ円周上のものということだ。円周上にはなん枚もチャートがはってあるから、数値は多く出なければならぬが、それでは表示するのに厄介なので、同一円周上のものの平均値を取っている。この表の見方をご紹介しよう。もっとも簡単な見方は最後の平均という欄の下段(「画面全体が平均的に最良となるようなピント面で」の欄)の数字だけ見ればよい。もうすこし詳しく見たい人は中心から周辺までの数字を見る。絞り開放の場合、画面中心がもっともピントの良い状態”で写したものが、たとえば、r 方向で160→146→97→59→75→84となっているとすると、それは中央がよく、中ほどが悪く、周辺にきてふたたびよくなることを示している。またt方向で160→145→107→91→64→47となっていたとすれば、それは周辺にゆくほど悪くなっていることを示している。
それならr方向、t方向とふたつあるのはなぜだろうと疑問を持つ方がおられよう。これこそ「非意収差”と呼ばれるレンズのクセからくる現象で、つまり中心から外れたところの点の像というものは、点としてまとまらないで、たがい垂直な2本の線に分離するのである。この2本の線を別々につないでいくと第3図のようなふたつの面ができる。1枚の平面をレンズで写しても、実際は1枚の面には結像せず、このように2枚の湾曲した面に写るというのはおもしろい。上方向の線は放射方向なので、それをつないでできた像面を「放射像面」といい、t方向、つまり同心円方向の線をつないだ面を「同心像面」と呼ぶ。この場合はこれらの像面は、TV映画でヤクザの渡世人が持つ三度笠のような、真中がちょっとへこんだ形を想像すればよい。別のレンズの場合には、昔の武士が狩りに出かけるときにかぶるような、周辺部がそり返った、いわゆる騎馬笠型に結像されるものもある。これらふたつの像面を、中心部を含めてスパッと切断し、切断面の上半部だけを図にしたのが、解像力表の傍についている“B非点収差”とある図表である。(第4図B)これで見るとふたつの像は面角24度へんまではそれほど開いていないが、それから外側になるほど開いている。つまり点が点として写らないから解像力は落ちるというわけだ。
像面がふたつに分れていては話が複雑になるから、その中間に平均的像面を設定して、実用面とするが、これはふつう、おわんのようにカーブを持った像面になっている。
球面収差というのは、第5図のように、光軸上の一点から出た光線が軸上の一点に集まらずに、前後に散る現象をいう。これがひどいと、どこに焦点があるのかわからなくなる。絞ることによってある程度除くことができるが、その状態を示したのが”球面収差”の図表で(第4図A)この図から見ると、F2ではプラス01ミリ(プラスは前ピンを表わす)、F28ではマイナス01ミリ(マイナスは後ピン)、F56にすると0.03ミリほどに減り、F8まで絞るとほとんど0になることが分かる。
レンズにはもうひとつへんなクセがある。それは“歪曲”というもので、正方形のものを写してもそれが第6図のようにタル型か糸巻き型に写る。正確な記録を主目的とするレンズがこれでは、困るわけだ。この量の大小を示すのが“歪曲”の図表(第4図C)で、これは第6図の斜線の部分だけ拡大したものと思えばよい。第4図のCでは画面スミではマイナス20%と読める。プラスは出っぱっているのだから「糸巻き型」、マイナスは反対にへっこんでいるから「タル型」を表わしている。
レンズ検査ではこのほかに、明るさ、焦点距離、開口効率などがテストされる。なおついでにつけ加えれば、解像力の測定値だけでは、ハロ(鮮鋭な像のまわりに加わるフワッとした光のニジミ)の程度がわからないから、この値だけでレンズの”良さ”をきめるのは不十分である。ただ解像力がある程度以上に低い(診断室ではライカ判で1mm 30本〜40本)場合は、SS級のフィルムで撮影しても画像の劣化を生ずるから、解像力はレンズの”悪さ”を表わす点で重要といえる。だから最高値に注目するより、最低値を問題にして判定した方がよいともいえるわけだ。とくに最高本数は、テストフィルムの影響をうけやすいから、あまり最高本数にこだわるのは感心しない。
カメラレビュー カメラドクターシリーズ〔第4週〕 アサヒカメラ連載〔ニューフェイス診断室から〕 カメラ診断室77 復刻版から抜粋。
